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第9話 地獄への扉

Penulis: 6jay
last update Tanggal publikasi: 2026-09-15 17:05:13

田園調布にある桐生一族の屋敷。その重い鉄門が、轟音とともに開いた。豪雨を突き抜けてきた黒いマイバッハが、庭の噴水の前で、鋭い音を立てて急停止した。

ドアを壊しかねない勢いで降りた蓮司は、雨水を滴らせながら玄関へ大股で進んだ。その剣幕に、警備員も使用人も青ざめ、慌てて道を空けた。

2階の応接室。

優雅なシルクのガウンをまとった雅子は、財界夫人の会の名簿に目を通しながら、ルミエールを主要取引先から締め出すよう、脅しの電話をかけていた。

バンッ!

重厚なマホガニーの扉が、壊れそうな勢いで開き、蓮司が現れた。濡れた髪の間からのぞく目は、獣よりも鋭く、容赦がなかった。

「れ、蓮司? こんな夜更けに、何なの、その格好は。連絡もなしに、どうしたの?」

雅子はティーカップを持ったまま、戸惑いに目を見開いた。

蓮司はひと言も答えずテーブルに歩み寄ると、母が見ていた名簿のファイルをひったくり、床に叩きつけた。

陶器のカップが大理石の床に落ち、鋭い破片を散らして砕けた。

「何をするの! 母親に向かって、その態度は何ですか!」

雅子が飛び上がるように驚き、きつい声を張り上げる。蓮司は上着の内ポケットから、濡れた封筒を2通取り出し、目の前に叩きつけた。

「よく見てください」

抑えた声は、地の底の水のように冷たく重かった。雅子は震える手で、封筒から書類を抜いた。

5年前、自分が金で人を雇い、捏造させた一ノ瀬紗月名義の慰謝料契約書の写し。他人名義の口座への送金明細。そして、赤い文字が鮮明なDNA鑑定結果だった。

【親子関係が成立する確率:99.99%】その文字を見た雅子の瞳が、激しく揺れた。

「こ、これは……いったい、どういうことなの?」

「5年前、金に目がくらんだ女だと指さし、追い出したあの人は、俺の子を身ごもっていました。母さんは、俺の息子を、俺自身の手で死地へ追いやらせたんです」

蓮司の声が、血を吐くようにかすれた。雅子は一瞬青ざめたが、すぐに歯を食いしばり、険しい顔で書類を握り潰した。

「あんな卑しい女の産んだガキを、どうして信じられるの! 久我悠真か、どこかの男の子を産んで、鑑定書を偽造したのかもしれないでしょう! 桐生の血を引いているはずがないわ!」

その瞬間、蓮司の腕が走った。母のすぐ脇にある大理石の飾り棚へ、拳を叩きつける。ガンッ!

強化ガラスに蜘蛛の巣のような亀裂が入り、赤い血が拳を伝って滴った。雅子は恐怖に息をのみ、声も出せなかった。

「その汚い口で、俺の息子と紗月を、もう一度でも侮辱してみろ。母親でも、俺が責任を取らせる」

涙と怒りの混じる瞳には、激しい殺気が燃えていた。

「今日限りで、桐生財団の理事長職を含む、母さんのグループ内の役職と権限、法人カードをすべて停止します。この家から、一歩も出ないでください」

「蓮司! 母親を閉じ込める気なの? 私が、どんな思いであなたを育てたと……!」

「ルミエールや紗月の周りに、もうひとりでも手の者を近づけたら、5年前の私文書偽造と会社資金横領の証拠を持って、俺が直接、中央地検へ行きます」

冷たく明確な最後通告に、雅子は膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。

「母さんの罪は、母さんが背負ってください。俺の罪は……俺が一生かけて、血の涙を流してでも償います」

崩れ落ちた母に背を向け、蓮司は一瞬もためらわずに屋敷を出た。豪雨の中、マイバッハは南青山へと疾走した。

闇に沈むルミエールの社屋前。蓮司は車から降りられないまま、夜遅くまでひとつだけ明かりのともる、紗月の執務室の窓を見上げていた。

車窓を激しく叩く雨音の中で、彼女がひとりで過ごした5年の地獄を思い、むせび泣いた。血に染まった拳で胸をかきむしりながら、罪悪感に涙を流し続けた。

車内で面談を求めるメッセージを書き、消した。距離を置いてほしいと、すでに言われている。それを知りながら、結局は傘も持たず、車を降りた。

社屋前の街灯の下で、蓮司は、自分のしていることが謝罪なのか、新たな圧力なのかもわからずにいた。紗月が帰るまで待とう。そう考えた時点で、相手の意思より、自分の後悔を優先していたのだった。

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